病気の原因と学童期の治療

   (口唇口蓋裂についての基礎知識)

このページでは、口唇口蓋裂と言う病気について、また、一般的な治療の方法などについての知識を持っていただくために、最も多い質問とそれについての説明をしています。このページを読んでから、協会の活動のページをお読みいただくことをおすすめします。


1.口唇裂とは

口唇(くちびる)に披裂を生じて生まれる病気のことをいいます。人の顔は、お母さんのおなかの中でいろいろな突起(顔面突起)が組合わされてつくられていきます。ですから、その途中ではすべての人がいろいろな披裂をもっているわけです。口唇裂とは、生まれてくるまでに口唇の部分の披裂がなくならなかった状態(口唇がくっつかなかった状態)をいいます。ですから、どんな人でもすべて胎児のときは口唇裂の状態だったといえますし、どんな人の子供も口唇裂になる可能性があります。

2.口蓋裂とは

最初、赤ちゃんは、お母さんのおなかの中で鼻腔(はな)も口腔(くち)も、まだ境がありません。だいたい胎生の9週ごろに左右の口蓋突起がのびてきて、口蓋(上あご)がつくられます。口蓋裂とは、赤ちゃんが生まれてくるまでに口蓋突起が最後までくっつかなかった状態をいいます。つまり、人は誰でもある時期まで口蓋裂の状態だったわけです。ですから、どんな人の子供も口蓋裂になる可能性があります。

3.原因は何でしょうか

一般に、口唇、口蓋裂は遣伝のみによっておこると考えられがちですが、これは大きな誤りです。詳しい原因はまだわかっていませんが、種々の環境要因が関与していると考えられています。動物実験でも、妊娠中に何日間か食物を与えなかったり、薬で眠くなるような状態にしておいたり、日常どこにでもいるような細菌に感染させただけでも口蓋裂の状態になります。専門家の間では、この病気について、多因子しきい説であろうとする考えが最も有力です。多因子しきい説とは、何か一つの原因によって病気になるというよりも、環境因子、遺伝因子など種々の因子が組み合わされてある一定の値(しきい値)を越えた場合に病気になるというのです。研究者によっては、肥満や糖尿病においても、この学説をあてはめる人もいるくらいです。そういった意味からも、この口唇、口蓋裂は特別の病気ではありません。

4.この病気の頻度は

口唇、口蓋裂の赤ちゃんの出生してくる頻度について、昭和56年から、愛知県産婦人科医会、愛知県助産婦会、日本母性保護医協会岐阜県支部、岐阜県助産婦会、三重県産婦人科医会、三重県助産婦会の会員の方々の全面的なご協力のもとに行っている調査結果をみますと、だいたい500〜700の出産に1人くらいの頻度であります。ということは百数十家族に1人の割合で、家族に口唇、口蓋裂の息者さんがいるということになりますが、これは白人800〜1000人に1人、黒人の1000〜1800人に1人に比べて日本人では相当高率といえます。また、お隣の韓国や、アメリカンインディアンでも比較的頻度が高いので、一般に、黄色人種では口唇、口蓋裂の頻度が高いと考えられます。

5.学童期に行われている治療

口唇、口蓋裂児の家族にとって、幼児期、学童期は、一次手術を終了し、手術前に比べ精神的にも安定しており、一般的に、この時期には口唇、口蓋裂の治療のほとんどが終了したというような感じさえあります。しかし、この時期に治療を必要とする多くの子供たちがいます。言語の障害、中耳炎、顎や歯列狭窄、審美上の問題など、この時期には子供さんひとりひとりで治療の要否が、また、治療の開始時期が異なります。ですから、児童ひとりひとりについて、治療の内容などについて先生が理解しておいて頂くことが重要です。


(1)再手術について

口唇裂は、生後3〜4カ月ごろに口唇裂一次手術を実施します。しかし、中には日時の経過に伴い、手術創を中心とした変形や瘢痕を生ずることもあります。過度の瘢痕、赤唇縁のズレなどは、子供さんの社会生活などを考慮し、就学1年前(5歳前後)に修正手術を実施することがあります。しかし、鼻の変形に対しては、人工物の挿入、鼻翼軟骨を含むような修正、外科的顎矯正(手術により歯の噛み合わせを治すこと)などのような大がかりな手術は行いません。これは、低年齢で修正をしても、成長に伴って歪みを生ずるうえ、再度の外科的侵襲(手術をして、生体に傷をつけること)により、劣成長を助長するためです。

口蓋裂については、生後1歳6カ月ごろに口蓋裂一次手術を施行したのち、ストロー吹きなどで、鼻咽腔閉鎖機能の能力を高める訓練を行います。一般に,口蓋裂の子供さんの約85パーセントは、この程度の簡単な訓練で自然にこの鼻咽腔閉鎖機能を獲得し、正常言語を話せるようになりますが、残りの15パーセント程度の子供さんは鼻咽腔閉鎖不全のため呼気(いきをはくときの空気)の鼻漏れによる開鼻声や構音(発音)異常が出現し,構音治療などが必要となります。また、この段階で、構音異常が歯の位置異常や口蓋の形態異常に起因するものでは、拡大床などで対処し、口腔鼻腔獲(口蓋にあいている穴)、鼻咽腔閉鎖機能不全などに起因するものでは、必要に応じ瘻孔閉鎖床や、スピーチエイドを使用します。また,適切な時期に瘻孔閉鎖術、咽頭弁形成術、再口蓋形成術などの口蓋裂の二次手術を施行する場合もあります。しかし最近では手術法の進歩により、口蓋裂で二次手術を必要とする子供さんは激減していますし、スピーチエイドの装着などにより、手術をせずに言語の改善が見られる場合が多いので、これらの装置をつけている子供がいます。この点にも配慮を頂ければと存じます。

(2)中耳炎

口蓋裂を有する場合、中耳炎にかかりやすいことが知られています。これは、口蓋裂のために耳管(耳と口とを結ぶ管)の口側の部分にある口蓋帆挙筋の先天的な低形成や、筋力不足など種々の原困に由来しておこると考えられています。その割合は口蓋裂の患者さんの5割にも達するという報告もあるくらいです。ですから、プールなどの折々はこの点にご留意頂ければと存じます。

(3)むし歯と歯列矯正について

口唇口蓋裂があると歯の形態異常、欠損、歯列不正などが見られます。本人としては一生懸命歯磨きをしていても、むし歯が多いことがあります。この点についてご留意頂き、歯科治療の指導なども適切にお願いできればと思います。また歯列矯正の治療を受けている子供も多く、装置の形態によっては話しにくいなどの構音面、噛みにくいなどの食物摂取についても配慮を要する場合があります。

このページの内容をさらに詳しくまとめたものが本として出版され、さらにQ&Aの部分を抜粋してウェブサイトにアップしてあります。ぜひこちらもご覧ください。

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